「あたしによくそんなこと言えるよね。
現実ってのはさあ、セーターや靴の上に赤ん坊がゲーッとやったり、
電気を止めるぞっておどかされて、
子どもたちを水風呂にいれなきゃなんなくなる……そういうことなんだよ。
それから、アパートの家賃だって決まった日に払えないってこと。
現実ってのはさあ、この子どもたちが、この世で頼れるのはあたしだけってこと。
それが現実なんだよ。
これでも、あたしが現実を見てないなんて言える? そんなこと言える?」(p34)
十四歳のラヴォーンと、十七歳のジョリー。
前者は劣悪な環境からの脱却を目指して勉学に努める女子学生、後者は幼子二人と汚部屋を抱えて低賃金の工場で働くシングルマザー。
アルバイトの募集広告をきっかけに、ふたりの少女は出会う。
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再読。 高校ぶりかな? お久しぶり。
急に読みたくなって、お母さんのテリトリーから引っ張り出してきた。
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・文体
文章は平易で一文が短め。
特に改行が特徴的で、全体としては軽やかでリズミカルな印象を受ける。
(訳者によるあとがきでは「散文詩のような」と表現される)
流れるようにサラサラと読めるが、その実、時々ハッとするような比喩や描写が出てくる。
「だいじょうぶ」っていうのが、ジョリーの口癖で、
終わってなくて中途半端でも、いつだって「だいじょうぶ」って言う。(中略)
わたしは、全部やりとげるのが好き。
全部やりとげること、それがこの町から出ていく切符、
ジョリーみたいにならないですむための切符だから。(p189)
ここ個人的にすっごい刺さる。刺さった。
(身につまされる的な意味で)
読んでいて思わずウッて声出たよ。
やめなきゃ…… 悪癖…… だいじょばない……
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・ラスト
最近は、完璧な伏線回収! 計算しつくされた起承転結!! 完全無欠のハピエン!!!! みたいな、綺麗にまとまったエンターテインメントを読むことが多かった(むしろライトノベルみたいなエンタメ系はそうじゃないと評価されにくいよね)ため、こういう終わり方は久しぶりに見た。新鮮。
なぜか大学生の時に佐賀で観た韓国映画思い出した。
あれも強く記憶に残る、不思議で鮮烈なラストだった……
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「地面に転んで、鼻血が出てた。だから匂いがかげなかった」
「だろ?」ジョリーは怒った声で言った。
「でも、やっぱ注意して触れば、
オレンジより小さいのに気がつくはずじゃない」
ジョリーは、責めるような目でにらんだ。
「みんな、いっつもそう言うんだよね、いっつも。
『あーらあら、レモンを握らされたって気がつかなきゃいけなかったのにねえ』」
ジョリーは作り声で言った。(p250-251)
ここ、冒頭の本文引用に使おうと思って。
結局使わなかったけどやはり印象的。
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蛇足:
現状からの脱却を目指して頑張る女の子の話好き。